個展を終えて About place

24日に地元前橋での個展の会期が終了した。

希有な出会いがあり、交流があり、考えさせられたことも多かったので

忘れないうちに記しておこうと思う。

 

私が今回個展をした会場はya-ginsというギャラリーで、オーナーはアーティストである。

八木隆行さんと言う。彼は絵画や立体を作って売る人ではない。

彼の作品は「行為」で、具体的にどんなのかと言えば、自作のカーボンのバスタブを背負って

あちこちに赴き、現地の水を引き、付属のボイラーでお湯を沸かし、自ら入浴する。

お風呂の中で ぷはーっとビールを飲む。そういう作品。

大工的なスキルもあるので、家でも何でも手作りしてしまう。

このギャラリーも彼が一人でリノベーションしたものだ。

半分は展示スペース、半分はコミュニティスペースになっている。

 

場所はさびれた商店街アーケードにある。

近くの金物屋には古びたところてん突きやねずみの罠などが並んでいるし、

目の前の駄菓子屋には少年たちが集まってカードゲームに興じている。

昭和にタイムスリップしてしまったような感じ。

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都会か地方かという違いはあるものの、わたしが今まで展示をしてきたのは

いわゆるふつうの画廊だったので、そんなちょっとディープな場所で作品を発表して、

そこに毎日のように通ってみて、感じたことがいくつかあった。

 

ひとつは、ものすごく自分が楽だったこと。

いつもはだいたいどこにいても誰といても気を使って疲れてしまうのだけど、

ここにいるときは不思議なことにほとんど疲れなかった。

作品売買の場所として捉えていなかった(もちろん売れたらうれしいけど)ことと、

八木さんの人柄もあるのだろうけど、一番大きな理由は、その街の持っている

“気取らなさ”ではないかと思う。

平和な音楽がうっすら流れていて、急いでいる人は誰もいない。

商店街としてはあまり機能していなくて、そこにいる人の「生活」が見える感じ。

古びた通りをこれまた古びたアーケードがシェルターのように包んでいる。

街の人たちは、展示に関心を持ってくれるわけではないけれど、悪感情もなさそう。

さらさらと通常運転。空間が菩薩。

それが妙な肯定感を与えてくれる。

そんなわけで、人がほとんど来ないにもかかわらず、わたしはほぼ毎日通っていた。

そこでは、母でも妻でも絵描きでもアラフォー女性でもない ただの自分に戻っていたと思う。

自分の作品を展示する場所でそこまで素になってしまうのは問題ではあるけれど、

なんだか久しぶりに一息つけた気がした。

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もうひとつは、アートの地域性みたいなもの。

地方都市のアートとお金のことを最近よく考えていた。

経済のしくみとか公金のこととか難しいことはよくわからない。

でも、訪れる人の話を聞いたりしていると、そこのところがネックのようだった。

そういうことを話すとき、皆 あきらめと笑顔がまざった表情をしている。

詳しい内容はよくわからないけれど、なんとなく要約すると

「みんないろいろ考えて努力してやっているけど、いまいち上手く回らない。

地域の芸術に対する公的な補助みたいなものも減りつつあり、思いきった企画を立てるのが

難しい。報酬も十分にいかないので現場の士気も下降気味。」ということなのだろう。

 

私の住んでいる前橋市は、近隣の市町村と比べると、文化や芸術に関心がある人が

比較的多いと言われている。肌感覚でもそんな感じがする。

実際アーティストという肩書きの人も多い。

数年前にアーツ前橋という市の美術館ができて、よりその向きが濃くなった。

しかしその流れが大きなうねりとなって盛り上がるということにはならなかった。

今は小さなグループがいくつか点在して静かに活動している感じ。

敵対しているわけではないけれど、一つにまとまるわけでもない。

その輪に入っていない私個人的には、それはけっこう良いありようで、

素敵だと思っている。今回たまたまその中の一つの輪に寄る機会があったことで

貴重だったしうれしくもある。

でもみんなの晴れやかでない表情を見ると、問題は山積していそうだ。

そしてその数多の問題を突きつめていくと、必ずお金の壁にぶつかる。

 

これは次に書くテキストの内容とも重なってくるけれど、

アーティストや芸術活動はお金とどう付き合ったらいいのだろう。

わたしは、作品を作って売る という単純なサイクルの外に何かを見いだして

いけるのだろうか。そして、それは他者と自分を豊かにすることができるだろうか。

柄にもなく、そんなことを最近よく考えている。

まだまだわからないことばかり。しかしとても興味がある。

少しずつ言葉にして手がかりを得てみようと思う。

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