迷子の蠅

築20年ほどの古いマンションに住んでいる。

生前父親が建てたマンションだ。

父らしいというかなんというか、どこもかしこも気が利いていなくて

舌打ちしたくなるような箇所がたくさんあるのだが、買い物に便利な場所にあるせいか

(スーパー、ドラッグストア、100均、ホームセンターまで徒歩一分)

住人はけっこういる。立地に感謝。

 

春になるとエントランスの踊り場のところで蠅が回遊している。

ぐるぐる円を描いて飛ぶ姿は一見水族館の魚のようだが、

たぶんあれは迷子なのだと思う。

左右の通路は外に通じているし、人の出入りがあれば自動ドアも空くのに

日に日に個体数が増えていく。ますます水族館っぽい。

たまに手荷物で誘導してみるのだが移動する気はないらしい。

毎日見ていたらなんだか自分の姿とも重なってきてしまった。

居心地が違う世界へ進むのがこわいのかもしれない。

 

コンクリートに囲まれてぐるぐる飛び続けるのもかわいそうなので

(なんといっても迷惑だし)うちわを持っていってぱたぱた扇いだら

全員どこかへ飛んでいった。

外の広い世界を楽しんでほしい。

そして私も外に出てみようと思った。